安定的な調達の実現に向け、多くの企業が国内外のサプライヤーとの情報共有やコラボレーションによる調達オペレーションの「見える化」に取り組んでいます。
業務システムと連携する高度な情報管理によってサプライチェーン全体が可視化できれば、データに基づいた迅速な意思決定にもつながるでしょう。既にそれらのデータを活用して生成AIによる業務効率改善まで取り組みを進めている企業もある一方で、デジタル化を進めているにも関わらずデータの効率的な利活用には至っていない企業も少なくありません。
本記事では、デジタル化してもデータの利活用が進まない理由や「調達コストの削減」「調達安定化」「需要と供給の精度向上」を実現するための情報連携、ソーシング業務やパーチェシング業務において有効なサプライチェーン・デジタル・オペレーションについてご紹介します。
工程ごとに最適なシステムを導入した結果、
横断的なデジタルデータを活用できない
調達における主要業務は、「情報連携」「ソーシング業務」「パーチェシング業務」の3パートに分類することができます。
サプライヤーを選んで見積もりや契約締結など行う工程である「ソーシング業務」で調達品目の数量や納期などを決めたら、後続の「パーチェシング業務」では決定に沿った確実な業務遂行が求められます。万が一、計画通りに納品されないような問題やリスクが発生すれば、代替調達先を検討するなどの判断・対応が必要になります。
そこで多くの企業が、取引先である国内外のサプライチェーンパートナー側の生産状況をリアルタイムで正確に把握するために、業務プロセスのデジタル化に取り組んでいます。
しかし、プロセスごとに分断したデジタル化に取り組む際には注意が必要です。工程ごとの最適化を前提にシステムが構築されてしまうと、一気通貫でのデータ利活用ができない「サイロ化」に陥る可能性があります。場合によっては、次のような課題が生まれることにもなりかねません。
- サイロ化されたデジタルデータを活用するために、マニュアル作業で他システムにデータ入力しなければならない
- 各システムのデータ格納先からETLやEAIなどのツールを使って取り出したデータの収集頻度や粒度がバラバラで使えない
- ヒューマンエラーによるデータ入力の打ち間違えやタイムラグが発生し、情報の精度・鮮度が低い
- サプライヤーによる納期遵守、輸配送の遅延、検品後の歩留まり、手元在庫の取り崩しなどの確認を個別に行う必要がある
B2Bデータ統合基盤で、安全・確実な
サプライヤーコラボレーションを実現する
では、このような問題を発生させず、調達・購買業務であるパーチェシング業務において、一気通貫でデジタルデータを活用しリアルタイムの「見える化」を実現するためには、どのように取り組むべきなのでしょうか?
それには、サプライヤーとの適切なコラボレーションによって管理・可視化・分析を行える「B2Bデータ統合基盤」の活用が必要不可欠です。
B2Bデータ統合基盤を導入することで、取引先である国内外のサプライヤーとの発注トランザクションを全てデジタル化し、サプライチェーン全体の情報統制ができるようになります。各システムのデータベースへ格納される前に企業間連携データとして一元処理されるため、サイロ化せず、注文ごとのステータスをシームレスかつタイムリーに確認することができるようになります。
これによって、パーチェシング業務での「見える化」と「理解」が進むでしょう。さらに、バイヤーとサプライヤー間の認識相違などによって発生しがちな誤発注の防止や、国際輸送における配送状況を正確で即時に把握することで緊急輸送費や過剰在庫の削減にもつながります。
非構造化データの活用が、業務効率化・生産性向上のカギに
パーチェシング業務の見える化が進むと、前工程であるソーシング業務における課題の「対策」と「改善」も可能になります。
そのために欠かせないのが、「非構造化データ」を活用できる環境の実現です。非構造化データとは、PDFやメールなどのさまざまなファイル形式のデータで、特定のアプリケーションで開いてみないと中身が分からないファイルを指します。パーチェシング業務ではEDIやWeb-EDIによる「構造化データ」によるやり取りが中心だったのに対し、ソーシング業務においてやり取りされるデータの多くは、設計書や仕様書、図面、契約書などの「非構造化データ」です。
これらの非構造化データは急速に増えています。コロナ禍を機に、これまで郵送していたデータがPDFに代わり、紙や冊子であったカタログがデジタルカタログになるなど、リモートワークが普及したことでデジタル文書のやり取りが一般的になりました。IDCによると、ビジネスにおけるデジタル文書のうち、2025年までには非構造化データが約80パーセントを占めており、非構造化データのやり取りは過去2年間で90パーセントも増加しています。さらに今後6年間で、ビジネスデータ交換市場は2倍になると予測されています。
非構造化データのデジタル活用が、企業成長のカギになるのは間違いありませんが、これまで非構造化データはメール添付やクラウドストレージ、ローカルディスクなど、さまざまな場所に散在していることもあり、デジタルデータとして活用することは難しいとされてきました。 しかし、テクノロジーの進化によって、非構造化データも「コンテンツ管理ソリューション」を活用すれば、シームレスかつタイムリーに活用できるようになっています。これまで眠っていた膨大な非構造化データが有効活用できれば、業務の効率化や生産性の飛躍的な向上が見込めるでしょう。
コンテンツ管理ソリューションで
サプライヤーコラボレーションを実現
では、非構造化データを活用できるコンテンツ管理ソリューションとは、どのようなものでしょうか?
権限やアクセス、期限やバージョン管理、承認ワークフローなど、文書管理に必要な機能があれば、現場担当者はこれまで通りの業務を行っているだけで、適切なファイルを適切な場所に保管し、適切なアクセスを制御しながら、情報の共有や管理を行うことができます。もちろん、それらの情報はシームレスに活用できるため、「サイロ化」を防ぐことも可能です。
さらに、パーチェシング業務で利用することが多い、文書共有やアンケート機能、掲示板/通知機能、依頼管理機能などがあれば、サプライヤーとの快適なコラボレーションを実現するだけではなく、共有文書も含めたあらゆるドキュメントの一元管理ができるでしょう。
生成AIの活用で、調達のコスト削減・安定化・精度向上が加速
また、生成AIの活用もこれからの企業競争力向上においては大きなポイントとなるでしょう。生成AIの活用によって、業務効率化は大きく加速します。
取引先のグローバル化によって、サプライチェーンはさまざまな地政学的リスクや地震などの大規模な自然災害の影響を大きく受けるようになっていますが、サプライチェーンの可視化ができていれば災害による分断をいち早く検知し、さらに生成AIの活用によって、代替可能なサプライヤー候補を瞬時にリストアップしてくれるはずです。
また、新たなサプライヤーをリストアップする際に、これまでは“時間をかけて、見積書や仕様書、契約書などのさまざまなデータを比較”したり、“ベテラン社員の経験による勘を頼りに検討”したりすることもあったのではないでしょうか。しかし、生成AIを活用すれば、条件を入力するだけで、瞬時に膨大な量のリアルタイムデータや過去データを参照し、適切なサプライヤー候補をリストアップすることができます。
しかし、生成AIのビジネス活用には、正しく使用できないことで発生するリスクもあります。
- 信頼できるデータを参照しなければ、正しい回答が返せない
- 閲覧権限を逸脱した回答による情報漏洩が発生してしまう
- 一元管理によって幅広い洞察を与えてくれるようにしなければならない
これらの点をクリアしながら、適切に生成AIを活用できれば、サプライヤーとの価格交渉や契約の見直し、調達プロセスの効率化といった調達コストの削減や、需要の変動やサプライヤーの問題による調達の不安定性に対する素早い対応が可能になります。
結果的に、調達の安定化の実現や、需要予測の精度向上により過剰在庫のコントロールができるようになるでしょう。